アフォーダンス(affordance)

アフォーダンスとは、認知科学者ギブソンが提唱した理論です。ここでは佐伯胖編『アクティブ・マインド』(東京大学出版会)に基づいて、アフォーダンスの説明をします。

ギブソンが問うたこと

人や動物が動き回ることを通して、世界がどういうふうになっているかがわかり、自分がどこをどう歩いているかがわかり、どこへ行くのかがわかり、いろいろなものがどういうことに役立つかがわかり、「針に糸をどう通すとか、自動車をどう運転するか、など何かあることをするその方法をどのように知るか」という問題。

 

アフォーダンスとは、生体の活動を誘発し方向づける性質です。人が何かを知覚することとは、生体がその活動の流れのなかで外界から自らのアフォーダンスを直接引き出すことであると捉えます。

アフォーダンスという考え方において重要なのは次の2点です。

  1. 知識は頭の中に想定しない。
  2. 知識は環境自体の中に存在している。

たとえば、何か道具を使う場合を考えてみましょう。アフォーダンスを使わない説明ではこうなります。

ある人がある道具を見たとき、その人はその道具が何であるか/何に使えるか知っているから、その道具を使う。

アフォーダンスで説明するとこうなります。

ある人は、あることを行おうという要求をもっている。あるモノが、その人が要求していることを行えるという情報を発している。その人の目に、そのモノが、その要求をかなえるモノとして目に入る(その人がそのモノが発する情報を発見する)。その人はそのモノを使い要求をかなえる。

たとえば、いまここに一本の削りたての鉛筆があるとします。

AさんもBさんも、あたりを見回して、この鉛筆に目を留めました。

おそらく「鉛筆とは文字を書くためのモノである」と二人とも知っているはずです。これは頭の中にある知識です。ところがBさんは「環境自体の中に存在する知識」を発見したからこそ、頭の中の知識とは違う使い方をして「背中を掻いた」のです。頭の中の知識にがんじがらめにされていたら鉛筆で背中を掻こうとは思いつかないはずですし、通常は「鉛筆とは背中を掻くモノである」とは思っていないでしょう。Bさんが、鉛筆で背中を掻いたのは、鉛筆が「背中を掻けるよ」というアフォーダンスを発していて、それをBさんが発見したと考えるのです。これは一種の発想の転換で、デザイナーにとってとても重要な視点です。

何かをデザインするときは、かならず機能上の要求があり、要求された機能に対して形態を与えるというプロセスをとることは、別ページで述べました。そして、「なんにでも使えるモノ=あらゆる機能をもつもの」をデザインせよと要求されることはなく、たとえばコップとか住宅とか飛行機とか、絞り込まれた機能が要求され、その要求を満たすために形態を作り出します。これは、ユーザによるアフォーダンス発見のプロセスとは根本的に異なるプロセスです。

出発点

ゴール

ユーザ

モノ/形態

アフォーダンス/機能の発見を通したモノ/形態の使用

デザイナー

機能

ひとつの形態/モノを決定

この点を、デザイナーは注意しなければなりません。

デザイナーがある機能的要求を満たすものとして生み出した形態に対して、ユーザは全く違う機能を発見する可能性があるのです。つまりデザイナーは、ひとつのアフォーダンスをもつものとしてつくったのかもしれませんが、それはさまざまなアフォーダンスを持ちうるわけで、そのことに十分注意して、デザインプロセスにおいて正しい判断しておかなければならないのです。

 

 

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