シンメトリー

  1. シンメトリーとは
  2. ウィトルウィウスにおけるシンメトリー
  3. 対称性の拡張
  4. 建築の平面形に見る対称性
  5. 対称な部分と全体構成
  6. 対称性の崩しかた
  7. 対称の仕組み方
  8. 世界の構成


 対称なものは、世の中にたくさんあります。建築の世界でも、左右対称の形をもっているものが多くあります。そして対称性は「美」のひとつの要因であるとも言われています。

シンメトリーを建築形態で考えると、通常、左右対称がありえますが、これは左右の2つの眼で世界を眺める人間の視覚からも妥当なことといえるでしょう。

建物あるいは建物配置が左右対称であるときと、そうでないときでは、われわれは何か異なるものを感じます。厳密に左右対称な建物が、神殿や神社仏閣や教会などの宗教建築や、宮殿や議事堂などの支配者たちの建築などに多いことは、その「異なるもの」が何であるか示唆しています。

シンメトリーとは

シンメトリーとは、もともとギリシア語のシュンメトリアです。シュン(συν)とは「同じ」という意味、メトロン(μετρον)とは「計る」というような意味です。つまり、計ると同じである、というような意味なのです。

ウィトルウィウスにおけるシンメトリー

ウィトルウィウスは『建築十書』において、美の要因を《理性をもって理解される寸法(比例)》と《感覚(視覚)によって得られる構図》の両面からとらえ、「美の理は、建物の外観が好ましく優雅であり、 かつ肢体の寸法関係が、正しいシュムメトリアの理論をもつ場合に保たれる」(I-3)と記しています。ここでのシュムメトリアは《量的秩序に基づく各肢体間と全体の構成》を意味しており、必ずしも数学的なあるいは幾何学的な意味での《対称》ということではありません。

対称性の拡張

時代を経るにしたがって、シンメトリーは左右対称を指すようになってきました。これはシンメトリーが本来持っていた意味が変化したことを意味します。

現代になって、近代数学の発展に基づき、対称性の意味を拡張しようという考えも見られます。たとえば、W.ミッチェルは著書の中で、左右対称だけでなく、ずらしや回転による同型変形(形を変えない変形)もシンメトリーとして捉えています(『建築の形態言語』第2章参照)。

左右対称
(鏡像)
ずらし
(平行移動)
回転
それらの組み合わせ

このような対称性は、たとえばイスラムの文様や装飾などにしばしば見受けられます。

建築の平面形に見る対称性

いろいろな建築に現れる左右対称な平面形をGIFアニメーションで見てみましょう。

 

図版:
ロジャー・H・クラーク著(倉田直道・洋子訳)、『建築フォルムコレクション』、集文社

 

対称な部分と全体構成

建物に対称性が必要だからといって、空間自体を対称にしなければならないわけではありません。ここに見る例(トラヤヌス帝のマーケット)では、軸線上の対称性が必要とされ、中央通路、左右の柱廊、その奥の部屋への入り口部分は、ほぼ対称につくられています。しかし視覚的に隠れたところ、つまり、部屋の奥の壁は敷地や周辺状況に合わせた形でつくられています。

都市というコンテクスト全体のバランスの中で、対称性をどのように設定するかが重要なのです。(図版:W.J.Mitchel, The Logic of Architectureより)

対称性の崩しかた

完全に左右対称なものは、ある種の退屈さを与える場合もあります。たとえば人間の顔も完全に左右対称にしてみると表情のないつまらない顔になってしまったりします。したがって場合によっては、意図的に対称性を崩すことも大切です。

この例(パルテノン神殿)は、一見、完全に左右対称に見えます。ところが完全に対称ではありません。異なる部分は、ペディメント(破風)の彫刻です(図には書き込まれていませんが、実はメトープの彫刻も左右対称ではありません)。たしかに建築部分は完全に左右対称につくられていますが、ペディメント部分にはめ込む彫刻を非対称にすることによって、全体としての豊かさを増しているのです。

 このように、左右対称を崩すとは言っても、一見してわかるような大げさな崩し方ではなく、全体を見渡したときに左右対処でない微妙な部位が発見できる程度で十分なのです。ギリシア神殿にかぎらず、キリスト教の教会や日本の社寺においても、彫刻などの装飾的要素によって左右対称を崩している例はたくさんあります----むしろ装飾による対称性の崩しは常套手段と言ってよいでしょう。

 

対称の仕組み方

対称性を建築の中に仕組むにはさまざまな方法があります。古代ローマのパンテオンではどうでしょうか。まずファサードはありふれた<左右対称>な構成をもっています。平面的にも完全に左右対称です。円形平面の内部空間には、直径43mの球が内接するようにできています。つまり、観念的には、あるいはデザイナーの思考の中では、全方向への対称性が考えられていることになります。

*球とは、ある点から一定の距離にある空間内の点の集合であるから、あらゆる対称性を持っているといえるのです。

 

対称性から見た世界の構成

 

西洋と東洋の世界観の違いは、<秩序>という概念の捉え方の違いとも考えられるでしょう。左図は、順に中国、フランス、イギリスの庭園構成を示したもので、順に、適合、対照、対立を現すとされています。右図は秩序体系と部分の種類の相関を示した図です。これらの図の中で、どのように対称を位置づければよいか考えてみてください。

(図版出典:井上充夫、『建築美論の歩み』、鹿島出版会)

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