いろいろな文献における黄金比の説明

『形のデータファイル』『広辞苑』『建築美論の歩み』『建築大辞典』新潮社『世界美術事典』

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かたちのデータファイル(高橋研究室編、彰国社)「黄金比」の説明(III-6)

黄金分割は、大きい部分と小さい部分の比が、大きい部分と線分全体との比に等しくなるように線分を分割することである。その値は、a^2-a-1=0の根として与えられ、a=(1+√5)/2=1.61803398875...という「割り切れない」値(ψと表記される)をもつ。

黄金分割は「聖なる比例(Divine Proportion)」とも呼ばれるように不思議な性質をもっている。その一つはψ^2や1/ψに、618...という値が現れることである。 黄金比は整数比でも近似できる。最も粗い近似は3:5で、人体の臍の位置にその例を見る。5:8になるとかなり正確な値に近づく。二辺の比がψとなる長方形を黄金矩形という。この長方形の対角線に頂点から垂直線を引き、対辺との交点によって原図形を分割すると、正方形と小さい黄金矩形がつくられる。この平面上の加算性、特に正方形との組み合わせが、西欧の造形で黄金分割が多用されてきた根拠の一つと考えられる。黄金矩形内に相似図形を無限につくり、それらの頂点を結ぶとψ螺線になり、これらの頂点も建物の主要な部分の位置の決定に利用されてきた。黄金分割の不思議な性質のもう一つは、長方形・ニ等辺三角形だけでなく正多角形の内部にも出現することである。正五角形、正十角形がその例である。

広辞苑の「黄金比」の説明
golden section(英), section d'or(仏)

一つの線分を外中比に分割すること。 (√5-1) : 2(ほぼ1対1.618)。 長方形の縦と横との関係など安定した美観を与えるとされる。

-> 黄金分割

『建築美論の歩み』(井上充夫、1991、鹿島出版会、p.59-60)、
「神聖比例」(フラ・ルカ・パチオリ、ca.1450-ca.1520)より

神聖比例とは黄金比のことである。 パチオリによると、これは神のように霊妙な比例で、「三位一体」の教理も合致し、算術的に書き表すことのできない神秘的な無理数であり、しかも唯一不変のもので、五種の正多面体および四元素とも関係があるという。

一般に古代から建築美論において常に神聖視されたのは簡単な整数比であったが、ただ整数や分数以外の特別の数として、まれに√2の比が採用されることもあった。

このような状況に対し、パチオリが√2よりも繁雑な無理数である黄金比を取り上げた点は、当時の数学的知識の進歩を示すものである。しかしそれは他面において、新しい信仰対象とされ、黄金比を美の根源とする一連の美学説を生むことになった。

建築大辞典の「黄金比」の説明

線分ABを点Cで内分し、AC:BC=AB:AC、すなわちAC^2=AB・BCとなるようにした とき ACとBCの比をいう。その比の値は AC:BC=(√5+1):2=1.618...:1、ま たは、2:(√5-1)=1:0.618...となる。黄金比を作図で求めるには図のよう にすればよい。フィボナッチ数列の隣接する2項の比は項が進むと急速に黄金比 に近づく。正5角形の辺と対角線の長さの比は黄金比になる。2辺の長さが黄金 比の長方形から短い方を1辺とする正方形を切取ると、残りの長方形の2辺の長 さもまた黄金比となる。その神秘さや安定感から古くから造形美を得るためによ く採用されてきた。A.ツァイジングの主張はその代表的な例。また人体の各部の 寸法比率がこれに近似するので、建築のように人体寸法に関連が深い分野では特 に実用的な意味でも重視されてきた。また等比数列ではあるが、加算性があると いう性質は、建築を組み立てるのに大変都合が良く、モデュールとしての適格条 件を備えている。しかし、すべてのモデュール数値を黄金比から定めることには, 無理数であるという決定的な不便さを伴うので、最近では黄金比よりフィボナ ッチ数列の方が重視されている。

黄金比(新潮『世界美術事典』より)

ある線分を二分して、一方の平方を、他方と全体の積に等しくするような分割。 すなわち、線分ABの上に点Cがあるとき、 (AC)^2=CB×AB、あるいはAC:CB=AB:ACになるような分割。 この比の値は1/2*(c+1)で、 ほぼ1.618:1、あるいは1:0.618となり、これを黄金比という。 黄金比は、古代ギリシア人によって発見され、 以後ヨーロッパで最も調和的で美しい比例(プロポーション)とみなされてきた。 近代に至って、ル・コルビュジエは、 黄金比がフィボナッチ(Fibonacci)数列の性質をもつことに着目し、 これを人体寸法と結びつけて「モデュロ−ル(黄金基準尺)」を考案した。 なお<セクション・ドール>の名を関したキュビズムのグループがある。